2010年02月10日
連載最終回の草稿(2月10日)
久しぶりに、パソコンのファイルを整理していたら、昔ボート雑誌に連載していた記事の草稿がでてきました。
連載のタイトルは、このブログと同じ「Kasayanのお天気放談」。
プレジャーボートに乗る人達のために書いた記事ですが、一般生活やアウトドアのレジャーでも通じることを書いていたつもりです。
連載最終回の記事の中に、このブログのコンセプトを書いている部分がありましたので、抜粋して掲載しておきたいと思います。
お天気放談17年12月号原稿 サブタイトル:最終章・・天気予報の評価
3年間にわたって連載してきたKasayanのお天気放談も今回が最終回。
天気予報を見るときのお約束からはじまって、簡単な天気図の読み方や専門天気図の使い方、そして一年を通した天気の流れの典型パターンの見直しを解説してきましたが、一貫してお伝えしたかったのは、天気を見定めるための「考え方」でした。
予報の受け手である私たちにとって必要な知識の量と質は、予報を作成する人たちほど必要ではありませんし、気象(学)の知識は本に書いてあります。むしろ、私達にとって必要なのは、インターネットの普及によってネット上に溢れるほどある気象情報や、予報の自由化によってチャンネル毎に異なるようになったテレビの予報を、的確に取捨選択し、それを正しく「評価」をする能力なのです。
しかし、この「評価」の方法を体得することは難しく、どの本にも書かれていません。
最終回では、今まで細切れにお伝えしてきた「評価」の方法のエッセンスだけを搾り出して、一気にまとめてみたいと思います。
1、天気予報を評価するということ
気象学のプロが集団になって発表している気象庁の予報と、一個人の予報を比較すれば、いずれが正しいかは明らかです。また、伝説の気象予報士?と言われるような予言者のような人がいたとしても、その予報が気象庁に勝る可能性があるのは、極めて限られた地域の予報に過ぎないでしょう。
にもかかわらず、予報がはずれて海上で怖い思いをしたり、せっかくの計画がオジャンになったりすると、天気予報に疑心暗鬼になって、自分なりの予想を立てたいという気持ちになります。実は私自身も、そんな気持ちから気象予報士になったのですが、立場が変わって天気予報を伝える側に立ってみると、天気予報がはずれたと感じられていた多くの場面は、予報の受け手の「評価の誤り」(予報内容や可能性の解釈とそれに基づいた行動選択の誤り)に過ぎなかったということに気づいたのです。
したがって予報を伝える者は、受け手が予報の評価を誤らない伝え方をしなければなりませんが、そのためには、「晴れ時々曇り」だけで終わらずに「ここ数日の傾向から見ると高気圧が計算以上に張り出すおそれがあって、北東の風が吹き込んだ場合には予報がはずれて小雨が降るかもしれない」という予報の曖昧さ(自信の無さ?)まで伝える必要があるのです。このように、言葉ではずれ易さを伝えるほうが、降水確率のようなハッキリしない数字よりは、よっぽど正しい評価に役立つことでしょう。
しかし、日本の天気予報のスタイルは「ズバリ」ということが重視されていて、たとえどんなに不安要素のある予報であっても断定的に伝えなければいけないという不文律があるのです。
晴れなのか雨なのか断言しなければ、国民を不必要に惑わすだけだという考え方もありますし、洗濯物が乾きやすいのか、勤め帰りに傘が必要なのか?ということのためだけに天気予報が使われるのであれば、むしろこのスタイルのほうが良いのかもしれません。
でも、海に船を出すということは、命にかかわることです。船を出せるというメリットと、悪天に遭遇するというリスクを衡量するための唯一の検討材料が天気予報であることを考えれば、不安要素のある予報を「ズバリ」出されても、それは迷惑以外の何者でもないでしょう。
ちょっと重くなってしまいましたが、ここでお伝えしたいのは、天気の予想はプロである気象庁にまかせておくということ。そして、私たちが天気予報の受け手としてすべきことは、予報の評価を誤らないために、気象庁や気象会社、そしてお天気キャスターが決して口にしない「天気のはずれ易さはどの程度なのか?」という消極的な部分を、読み取るということなのです。
これが、3年間私がお伝えしたかった最も重要なポイントです。
2010年02月10日
天気予報は当たるのか?(2月10日)
故郷長野の帰ってきた気象予報士Kasayan。おきまりのテレビの天気予報とはちょっと異なる視聴者の視点から、今日の天気予報をチェックしています。今日の天気予報は当たるんでしょうか?
1、今日の一言
昨日、曇りベースの予報だった中南部では晴れベースのイメージに・・・雨ベースの予報だった北部は曇りベースのイメージになりました。
一言でいえば予報は天気が良くなるほうへ少しハズレたという感じです。
下の左側の天気図は昨日朝に発表された昨日夜9時の予想天気図、右側は実際の観測にもとづいた実況天気図。

夜9時、東海沖まで南下した前線上に低気圧が発生すると予想されたものの、実際は低気圧は発生せず、前線も南岸まで南下しませんでした。
このため、県内の天気は予報ほど悪くならなかったと考えられます。
この前線上の低気圧・・・北海道の東海上にある低気圧のように発達したものでなく、太平洋と大陸の高気圧にはさまれた気圧の谷の中にあって、相対的に周辺より「やや」気圧が低めという程度のもの。
天気のシュミレーションを計算するたびに発達の程度や位置が異なって計算されるアヤシイ低気圧でした。
このため、長野地方気象台も、実況にあわせて午前11時発表の予報で天気が良くなる方向に修正をかけましたが(詳しくは昨日の記事の追記参照)、今日も予報を修正する必要・・・それも昨日と異なり天気を悪目に変更する必要が生じるかも知れない状況です。
そこで、今日も昼飯どきに時間があれば、11時の予報もチェックして追記したいと考えています。
2、全国の予報
テレビやネットでご存じの天気マークの天気予報。使い方次第で何倍にも役立てることができますよ。まずは全国の予報から。「木を見て森を見ない」などと言いますが、天気予報も頭上の天気だけを気にしていてもダメ。
天気の変化は他県からやってきます。

北日本は、日本海側雪・太平洋側晴れの傾向・・・プチ冬型天気分布と命名?してみました。
一方、その他のエリアは広くぐずつきエリア。
ちょうど3月末の菜種梅雨のような天気分布です。
3、長野県の予報
長野にズーム。見るのは天気マークの天気予報だけ?
「・・のち・・」って何時でしょう? 「所により・・」はマークだけじゃわかりません。

ぐずつきエリアの長野県。
北部と中部は「のち 雪」マーク、南部は「のち 雨」マーク。
ただ予報文を見ると、北部は雪一発ですけど、中部と南部は「雪か雨」と「雨か雪」。
中南部は雨が降るのか雪が降るのか定まらないけど、中部のほうが雪メインだな・・・という予報です。
で・・・降りだしは県内各地とも「夜」・・・中部の降りだしだけちょっと遅くなって「夜遅く」。
「所により雨」もついていませんから日中曇りベースで推移するということのようですが・・・・
お隣の岐阜県や富山県の傘マークが気になるので、予報文をチェックしてみると、富山県では一日通して雨、岐阜県飛騨地方も一日を通して「時々 雨」、南の美濃地方では「昼過ぎから時々雨」。
お隣の県では日中雨が降るのに長野県は大丈夫?・・・・北アルプスの壁?が守ってくれていると想像できますが、ここは詳しくチェックしておかないといけませんね。
あと・・・北部の霧・・湿った空気が流れ込んでいる証拠です。
そうそうもう一つ・・・今夜寒気が南下して、南部も雪に変わるかも?
東京も雪の可能性が出ていますが、このあたりは今夜の予報でチェックするのが吉です。
4、一般的な天気図の評
どんな理由でその予報は作られたんでしょうか?理由がわからなければ占いと同じ?テレビの解説は「天気予報の確からしさ」を知るための道具です。

昨日と似ていますが、今日も前線が引き続き南下。
北九州付近にある低気圧が夜には関東沖まで進みます。
前線付近では、冬の空気と春の空気がぶつかりあって雨雲発生。
冬の空気優勢の県北部や新潟県では雪になり、春の空気優勢のエリアでは雨になるというシナリオです。
5、今日の天気予報は当たるのか?
100%じゃない天気予報。もしハズレるとしたらどうなるんでしょうか?
予報のハズレで失敗しない方法を考えます。
今日も計算値は不安定な状況。
短期予報解説資料という気象庁が発表した業務用?の資料を読むと・・・・
「前線上の低気圧についてはイニシャル変わりがあり、モデルの不確定性が大きいが最新のGSM を基本に考える。雨域はMSM も参考。」
・・・なんて書いてあります。これは、計算のたびに低気圧の予測に変化があるということです。
昨日午後発表の資料から「不確定性が大きい」と書かれ始めましたから、気象庁も昨日日中の様子を見て「こりゃアヤシイ」と確信したんでしょう。
この点を考慮して予報を出しているにしても、今日の予報は安全マージンを広めにとっておく必要がありそうです。
で・・・・県周辺の天気マークをチェックして気になった、岐阜や富山の雨が影響しないのか?が一番心配になってきます。夜の雨や雪の予報が空振りになるより、昼間の曇りベースの予報が見逃しになるほうが怖いのですから。
まず、レーダーでみた今朝の雨雲の様子から。

上のアニメで見た今朝3時の前線よりずっと北側で雨雲が発達していることがわかります。
前線上で雨・・・・って普通思いますけど、どうしてなんでしょう?

この図は相当温位という雨の原料の多さを表した図ですけど、午前中は太平洋の湿った暖かい空気が南西の風にのって、日本海付近まで流れこんでいることがわかります。
このため、雨雲が日本海付近に多く発生しているわけですね。
一方、夜になると湿った空気の流れ込みは南岸付近まで下がってきます。
ということは・・・今夜南岸付近・・・県内では南部で雨が降りやすいということになります。

おなじみの降水量予測を見ても、南部の降水量が多くなっていました。
じゃぁ・・・湿った空気が流れ込むエリアが南下する途中の昼頃・・・なんで県内では雨にならないの?という疑問が出てきます。
そこで、おなじみのMSMという降水のシュミレーションで昼間の雨の様子をチェックしてみます。

どうやら北アルプスや岐阜県の山々に、湿った南西風がブロックされて県内の降水は少なく計算されているようです。
もっとも、北アルプスのように県の西側に北アルプスのような高い山がない南部では中央アルプスや南アルプス付近で雨雲が発生して雨が予想されています。
なんで予報は南部に「所により雨」をつけていないんだろう?
そこで、上のアニメの原図になるGSMというもう一つのシュミレーションプログラムの計算値を見ると・・・・

南部に降水域は拡大していません。
さらに、統計的要素も加わった天気分布予報・・・テレビでもよく見るメッシュの予報・・・を見ても・・・
http://www.jma.go.jp/jp/mesh20/207.html?elementCode=0
やっぱり南部への雨の拡大は予想されていません。
このあたりを考慮して、気象台は日中「所により雨」をつけなかったんでしょう。
でも・・・・・・このあたりが一番アヤシイ感じがします。
本当はもっと検討したいところですが、時間切れ・・・・・
今日の予報・・・・計算値が不安定という点を考慮して安全マージンをとれば日中「所により雨」があるかもしれません。
ということで・・・今日の中南部の予報が特にアヤシイ(北部も「所により」を付けてもいいかも)。
降水確率40%になっていますけど、Kasayanなら絶対折り畳みの傘を用意すると思います。
まあ、昨日のように良い方向へと転がる可能性もありますけど・・・・・午後から用事のある方は午前11時発表の修正予報を再確認してください。
昨日のように修正しているかもしれませんよ?
追記11時50分
10時~11時頃、北部、南部の西側の地域で雨。およそ2時間程度で昼前には終息に向かっています。午前11時の予報は朝発表のまま。このまま午後は曇りで推移するので予報を修正する必要がないと判断したと思われますが、岐阜県の雨雲が木曽方面に流れ込む傾向は続いていますから、引き続き安全マージンをとって、午後も予報にない雨を想定しておいたほうが良いと考えます。

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